大判例

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京都地方裁判所 昭和42年(ワ)643号 判決

原告

京都運輸倉庫株式会社

代理人

奥村文輔

外二名

被告

高畑孝

代理人

吉田鉄次郎

主文

被告は原告に対し、金二一万一、七八二円およびこれに対する昭和四二年六月一八日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は一〇分し、その九を原告の、その余を被告の、各負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し、金二一七万四四二一円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決と仮執行の宣言とを求め、その請求の原因として、

「一、原告は、貨物自動車による運送事業等を営んでいるところ、原告の従業員訴外田中政一は、昭和四一年四月五日午後六時四〇分頃、原告の命により、原告所有の貨物自動車京一い一九二一号(以下甲車という。)を運転し、石川県石川郡松任町宮丸町国道八号線を京都方面に向け進行していたところ、対向車である、被告運転にかかる被告所有のダンプカー富一せ八九三号(以下乙車という。)と離合するに際し、甲車を乙車左側に接触されて甲車右側アングルをはぎとられ右側方に折まげ突出させられる結果を生じ、右突嗟の事故で停車の暇なくアングルを右側方に突出させたまま進行した一瞬、乙車に後続していた訴外藪孝治(当時四六才)運転の小型トラック石四の八八六号の運転台および屋根を右曲折突出したアングルでなで切る様にして激突大破させて同人を死亡させるに至らしめたものである。

二、本件事故は、甲車運転手訴外田中政一の不注意もさることながら、被告が、離合する際の安全義務を怠り、甲、乙車の間隔に充分な余裕を保つて離合しなかつた被告の過失に基因するものであるから、被告は、本件事故により原告の豪つた後記の損害を賠償すべき義務を負う。

三、本件事故により、原告は、次のとおりの損害を受けた。

1  甲車の損傷に基づく損害金二〇万円。

2  原告が、訴外藪孝治の遺族に対し、補償したことによる損害合計金二九〇万九、四四〇円。その内訳は次のとおり。

(1)  葬式に対する弔慰金花環供物代金五万九、四四〇円

(2)  慰藉料金二二〇万円

(3)  訴外藪孝治運転の車の損傷代金六五万円

3  本件事故処理に要した電話料、交通費、宿泊料等の諸雑費金六万四、九八一円。

四、原告の右損害に対し、原告は、自動車損害賠償保障法に基づく保険金一〇〇万円の支払を受けたので、右損害額よりこれを差引くと、結局、原告の損害は金二一七万四、四二一円となる。

五、よつて、原告は、被告に対し、金二一七万四、四二一円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

六、被告主張第四項の事実は争う。」

と述べた。

被告代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「一、原告主張請求原因第一項の事実中、原告主張の日時場所において、甲、乙両車が接触した事実は認めるが、右事故の原因および結果は否認する。

二、同第二項の事実は否認する。

三、同第三項の事実は不知。

四、原告主張の日時頃、被告は、乙車を運転し、原告主張の国道八号線の中央線の左側を、富山県方向に時速三五粁の速度で北進して来た時、甲車が京都市の方向に時速六〇粁の速度で南進して来て、一瞬のうちに甲車は中央線を乗越えて乙車に接触したものであり、本件接触事故の原因は全く甲車の側に専ら存在し、乙車の側には何等の過失も存在しない。

よつて、原告の本訴請求は失当である。」

と述べた。

理由

一〈証拠〉を綜合すると、原告は、貨物自動車による運送事業等を営んでいるところ、原告の従業員訴外田中政一は、昭和四一年四月五日午後六時四〇分頃、原告の命により甲車を運転し、石川県石川郡松任町字宮丸町八五番地の二先国道八号線路上(同番地の二先附近の国道八号線は、幅員約6.05米の歩車道の区別のない道路で、その両側に約0.8米の非舗装道路の路肩があり、その路面は平坦で、附近の見通しは極めてよい。)に時速約五五粁で京都方面に向けて差しかかつたが、その際、前方約四〇米先の地点に、対向車道上を乙車が接近してくるのを認めながら、中央線から対向車道上に甲車の車体を約三〇糎進出した状態のまま漫然運転を続けたため、甲車右側面を対向車道上を進行中の乙車の右側面に接触擦過させ、甲車荷台右側面板取りつけの金属性のアングルの一部を右方に剥離させたうえ、引続き、一瞬のうちに、対向車道上を乙車のすぐ後に追従してきた訴外藪孝治運転の小型貨物自動車の運転台に、右アングルを突き当てさせて同訴外人の頭部を強打し、よつて、同訴外人を頭蓋開放骨折、脳挫傷により即死させたものであること、ところで、被告は、乙車を運転し、時速三五粁ないし四〇粁で富山方面に向けて右接触事故の現場に差しかかつたものであるが、甲車と接触する前、乙車の前方約五、六〇米の地点に、右のとおり、甲車がその車体を中央線から進出した状態のまま接近してくるのを認識し、一瞬危険を感じたが、中央線から進出した状態で進行しているのは甲車であり、乙車は道路の進行方向左側を進行しているのであるから、甲車と乙車が交差する際には、甲車の方で、乙車を避けて、その進行方向左側に寄り、安全に離合するものと考え、乙車をさらに左側へ寄せることなく、乙車をそのまま直進させて甲車と離合しようとしたところ、右の訴とおり、訴外田中政一において、乙車を避けることなく、甲車を中央線から反対車道上に約三〇糎進出した状態のまま漫然運転を続けたため、右接触事故を起こしたものであること、しかし、被告が、甲、乙両車交差の際、乙車をさらにその進行方向左側に寄せる措置をととつていたならば、甲、乙両車は安全に離合した状況にあり、被告において右措置を容易にとりえたが、右のとおり、その必要がないものと考え、右措置をとらなかつたこと、甲、乙両車の右接触事故がなければ、甲車のアングルが、前記のとおり、右に出ることはなく、訴外藪孝治運転の車に甲車が接触することもありえないこと、以上の事実を認めうる。右認定に反する〈証拠〉は採用し難く、他に右認定を左右する証拠はない。

右認定事実からすると、甲、乙両車の右接触事故が、対向車道上を乙車が接近してくるのを認めながら、中央線から対向車道上に甲車を約三〇糎進出した状態のままで漫然運転を続けた訴外田中政一の重大な過失に起因することは明らかであるが、一方被告は、道路左側を進行したとはいえ、甲、乙両車が交差する際、甲車が急に中央線からはみ出て接触したような場合は格別、本件においては、乙車前方約五、六〇米の地点に、右のとおり、中央線から進出して接近してくる甲車を認め危険を感じたのであるから、このような場合、甲車において先ず進行方向左側に寄るべきは当然であるが、被告としても、交差するに際し、さらに進行方向左側に寄つて安全に離合すべき注意義務がないとはいえず、右接触事故は、右注意義務を怠つた被告の過失にも起因するものというべきであり、右接触事故に関し、訴外田中政一と被告との過失の割合は、九対一と認めるのが相当である。

二さらに、前記認定事実からすると、訴外藪孝治運転の小型トラックを大破し、同訴外人を死亡させたのは、甲乙両車の前記接触事故に起因するものというべく、その過失割合は、訴外田中政一と被告との前記接触事故に関する過失割合に応ずると認めるのが相当であり、また、訴外田中政一が右事故当時原告の業務を執行中であつたことは明らかである。

三〈証拠〉によると、原告は、甲、乙両車の前記接触事故による甲車の破損に対する修理費として、金一四万三、四〇〇円相当を要した事実を認めうるから、右事故により、原告は、甲車の損傷に基づき、同額の損害を蒙つたものというべきところ、職権により、訴外田中政一の前記過失を斟酌して過失相殺すると(原告の被用者である訴外田中政一の過失は、実質的に原告の過失と同一視すべきである。)、右損害のうち、原告に対し、被告の賠償すべき金額は、金一万四、三四〇円となる。

四〈証拠〉によると、訴外藪孝治運転の小型トラックの大破および同訴外人の死亡事故に関し、示談の結果、原告は、同訴外人の遺族に対し、葬式に対する弔慰金花環供物代として金五万九、四四〇円、慰藉料として金二二〇万円、同訴外人運転の車の損傷に対し金六五万円を支払つたこと、原告は、右事故処理のため、原告の従業員を右遺族宅へ出向かせる等して示談交渉し、そのために支出を余儀なくされた雑費は合計金六万四、九八一円であること、以上の事実を認めうる。

ところで、訴外藪孝治に対する事故の関係では、原告と被告とは、共同不法行為者の責任を負うものであるところ、右事故による損害およびその処理に要した前記費用については、その責任の負担部分は、右事故に関する原告と被告との前記過失割合(前記のとおり、訴外田中政一の過失は、原告の過失と同一視すべきである。)によつて決するのが相当である。

なお、原告が自動車損害賠償保障法に基づく保険金一〇〇万円の支払を受けたことは、原告において自認するところである。

したがつて、原告が訴外藪孝治の遺族に対し支払つた右損害合計金二九〇万九、四四〇円から金一〇〇万円を差引いた金一九〇万九、四四〇円と前記事故処理のため原告の要した雑費金六万四、九八一円との合計金一九七万四、四二一円を、原告と被告は、九対一の割合で負担すべきであるから、結局、原告は、金一九七万四、四二一円のうち、金一九万七、四四二円を、被告に対し、求償しうるに止まる。

五してみると、原告の本訴請求は被告に対し、金二一万一、七八二円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日であること本件記録上明らかな昭和四二年六月一八日から支払済に済るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の部分は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。(寒竹剛)

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